盲導犬について その2(多和田悟、1995年8月、仙台市ホームヘルパー研修会 抜粋)
■ ■ ■ 盲導犬 その2 ■ ■ ■ 僕自身は、この仕事に関わりまして21年です。僕の場合は、ずっと盲導犬を通じて目の見えない人の歩きの保証をしてきたわけです。盲導犬は、今、宮城県でも、ちょっと、流行りはじめましたね。先日も、5月の12日だったかな、中新田の方の盲導犬の歩行訓練終わりまして、まだ、宮城ではテレビの方等、来てくれるんですね。京都あたりではもう、盲導犬歩いてるくらいでは、新聞やテレビ来てくれませんから、久しぶりに記者会見というのに立ち会いました。盲導犬、皆さんが思っていらっしゃるイメージというのは、お利口な犬、そして何でもやってくれる、それとかわいい。そうすると今度は逆に、それを使ってる人はどんな人かというと、何も出来ない可哀想な人。一人じゃ歩くことが出来ない可哀想な人。それをこのお利口な犬が、で、犬がお利口で、それを使う人間がなんにも出来ない可哀想な人、、このギャップが大きければ大きいほど感動となる。果たしてその感動というのはなんなのか。これが、かなりのくせ者。この盲導犬に対する社会の興味ってのは、何なんだろうな、と思いました。だから、目の見えない人が、何も出来なくて、だらしなければだらしないほど、犬のお利口さが光る。で、それを訓練してる人ってのはどうも、優しい人で、動物愛にあふれておって、、ていうような最初からイメージがあるわけです。ところが当たってない。その一番いい例がサーブですね。皆さん、サーブ、ご存じですか? あの物語。ご主人を助ける為に、片手を失くしたという優秀な盲導犬。サーブってのはご存じかと思う。じゃあ、サーブを使っていた人の名前、ご存じですか? おかしいでしょ。 例えば、ここに白い杖があります。この杖をここに置きます。杖があると言う人は誰もいない。誰かが使ってる杖がある。杖だけ一本ここに寝てても、誰もなんにも言わないけれど、盲導犬が一頭そこにいれば、使ってる人の名前知らなくても「わ、盲導犬だ」となる。だからよくテレビで、インタビュー受ける時に「日本で今、何頭盲導犬いますか?」っていう聞き方をされる。正しいのは、800人の人が犬を使って歩いている。テレビの人が、「日本には何頭盲導犬がいるんですか、宮城県には何頭いるんですか?」必死になって聞いてきます。本来は、何頭の盲導犬がいるのかじゃなくて、何人の目の見えない人が盲導犬を使っているか、という人中心の視点でなければならないはずです。「日本中に白い杖、何本ありますか?」って聞かないでしょ。ましてリハビリテーションの施設の中で、白杖による歩行指導を行って、その場合に、「去年は何人の歩行指導をしましたか?」って聞きますね。「去年、何本杖出て行きましたか?」ては聞かない。それなのに盲導犬の場合は、「何頭の盲導犬が活躍してますか?」と聞かれる。宮城には2頭の犬がいるそうです。ということは、2人の目の見えない方が、自分の歩く情報を集める手段として選んでるという事です。ですから僕は、あくまでも人間が主人公であって欲しいなあと思う。どれほどお利口な犬がいても、人間の変わりにならない。盲導犬が何頭で計算される世の中ってのは、やはり間違ってると思う。何人の人が、犬を使って歩いているか、という立場に立たなければならない。 それと、決定する主体はどっちにあるかということ。よく盲導犬触っちゃいけないと言うけど、そんな事決めた覚えはない。盲導犬が触っていけないと言うことであるならば、それはアンタッチャブル。例えばこういう事。京都で目の見えない人が電車に乗ってるとき、席に座ってたら、「あんたの席あっちだ、障害者シート。」といわれた。これじゃ話が違う。「あんたの席、あっちじゃないか、障害者シートじゃないか」それは隔離です。そんな事じゃなかったはずです、このシルバーシート。盲導犬を触っちゃいかん、これは社会が言っているのかもしれない、盲導犬協会がいっているのかもしれない。僕は本人に断れば、触っていいと思う。本人が承知してれば触っていいと思う。ノーと選択する権利が本人にあるという事は、とても大事だと思う。 例えばホームヘルパーさん達その仕事の中で、いろんな事があると思う。決めるのは全て利用者です。そのために利用者が決めれるだけの情報提供してますか。 「障害者なんて、こんなもんなんだよ。やってやらにゃあ、ならんのだよ。」と、周囲が決めつけるのではなく、それは本人が決めることです。 盲導犬に関しても「いらない、触って欲しくないんです」って言える環境を整える事、これが正しい社会のありかた。相手が断れない状況で触ってしまうのはいかんのです。触りたい人は犬好きなんです。かわいくて触りたくてしょうがない。あれ分かる気はするけど、これは誰の持ってるものか。誰のものか。こっちがさわりに行く問題ではなくて、盲導犬を使用してる本人が決める事。だから盲導犬も触ってはいけないと決める必要はない。あなたの犬、とてもかわいい。触りたいんだけれどもいいですか?ごめんね、今、忙しいから、また次会ったらね、声かけてね、と言ったら角たたない。 盲導犬ってその人の生活楽しくするべきもので、もっと、社会の中でも肯定的なものでしょ。僕そう思ってる。僕の生徒さん、130人卒業しました。この方々、触りたいといわれたら、あなたの都合さえ良くって、あなたがそのことでOK出せる状態であれば、そこまで礼儀正しく聞いてきてるのであれば、答えてやってっていいます。ところが、痴漢さんがやたら多い。いきなり、触る。これ、自分の子供にやられたら、どんだけ腹がたつか。そうでなかったら、アンタッチャブルかどっちか。 決定する権利がないと思ってしまうひとつの根拠に、目が見えないと何も出来ない、そしてその人は判断する能力がない、と、勝手に相手のことを決めつけているということがあると思います。ないっていうなら、あなたはその情報を相手に提供してますか。あなたは、これとこれとこれが選べます。そのうちでどれを選びますか。という選択を相手に任してますか。決してそうじゃない。目が見えんもんは、こういう生き方をしなさい。例えば白い杖ついて、盲学校行って、立派なあんまさんになんなさい、と言われてきた現実があります。今でこそ、いろいろ違う仕事があるけど、こういう状況の中で、目の見えない人達に自由に選択する事を求めても、その情報が入っていなかったら、非常に難しい事だなと思います。 また、愛するのはどういう事かっていうと、マザーテレサが言ってますね。「愛するの反対は愛さないではない。無関心だ。」じゃあ、愛するって何か、関心を持つこと。皆さんが、固有名詞を持って、その人の前に立った時、私やってあげる人、あなたやってもらう人、ではない、固有名詞と固有名詞を持つ人間同士が、お手伝いをする人、そしてそのお手伝いを必要とする人、手伝いってのは、代わってやることじゃない。その正常な、とても豊かな関係がそこにあると思う。あなた、かわいそうにね、って言ってるとき、その痛みを共にしない関係で言ってる時には、大きな溝がある。私痛くない人、あなた痛い人、自分は痛くないんです。例えば地震で家なくされた方、僕は地震で家なくしてないんです。でも、その人の側に立ったとき、同じ方向をむいて、何が今大変?何が出来る? そうだよな、大変だよな、俺に何ができるかな、出来る事あったら言って。彼らの痛み、僕は地震で家なくしてない。だけど、地震で家なくした人の痛みを多少背負う事が出来るんであれば、それはあなたに、「私に何が出来ますか?」って聞く事から始まると思う。 目の見えない人は、何も出来ない人、かわいそうな人、また、ホームヘルパーを頼むような人は、大変な人、と思わないで下さい。一人の固有名詞を持った人間の前に、固有名詞のあなたが立ってみて下さい。そしたら皆さんの人生、バックグラウンド持ってる人間、この人間が、バックグラウンド持つ人間の前に立つわけですから、まさに人間同士の話し合いがそこで出来るわけです。私やってあげる人、こんだけやってあげるのに、ありがとうの一言もない。こんだけやってあげたのに、当たり前の顔してる、お手伝いさんかのように。この研修以降、きっと、その利用者の方達も、当然教育されるでしょう。人間とのつきあい方を教育される。これは皆さんが、変えられるところでもある。まず第一に、やらなければならない事、「おっはよー」って入っていく。「おはようございます~」て。そして一番の特効薬、笑顔。相手が見えないからって言ったって、笑顔、分かるんです。 その人の生活、そしてその人の生活の質を豊かにする事によって、人生の質がとても豊かなものになる。生活の質を豊かにするだけだったら、ほうきよりも掃除機でしょ。そんなん、人間が人格を持って関わる事をしなくても出来る。あなたでなければ出来ない仕事がここにある。とても辛い仕事で、ケアをされることを必要とする仕事。でもそれだけに、皆さんの人生をとても豊かになったものだと思います。大変でしょうけども、その大変さを楽しめる余裕と、ちょっとした勇気。外国の人と関わる時に、イスラム教の人に豚肉を出してはいけません。そうですね。それを承知で出したら、いやがらせ。相手が、豚肉は食べれません、宗教上の理由で食べれませんという事があれば、聞いておかなければならない。もし、知らないで出してしまったら、ごめんなさい、しかないです。 皆さんの笑顔がそのケアのひとつである可能性があるということ、この事を覚えて下さい。 ● ● ● ● ● ● ページの一番上へ戻る |